写真は音楽を、音楽は写真を乗せて
先月の記事では特殊パッケージのデザインのことを書いたが、今回は、音楽のアルバムカバーアート写真、いわゆるジャケ写の話を。
多くの場合、アルバムのジャケ写はアートディレクターがそのアルバム用に写真家を選び、撮影を行うと思うのだが、有名無名問わず、もともと存在する写真家の作品をカバーアートに使用する事がある。
例えば、Fairground Attraction(フェアグラウンド・アトラクション) の First of a Million Kisses(邦題は「ファースト・キス」)。
このジャケットに使われている写真は、フランスの超有名な写真家、エリオット・アーウィットが1955年に撮影した「California kiss」というこれまた超有名な作品で、タイトル含め、アルバムの世界観と写真に統一感がありすぎて、まるでこの作品のために撮影されたとしか思えないほど。
Fairground Attraction と聞くと、真っ先にこの写真が頭に浮かぶ、という方も多いかもしれない。
このようにアルバムの為に撮影されたものでない作品が、ジャケ写に起用された例が、どのくらい存在するのかわからないけれど、私が持っているものだけでもこれだけある。どれも思い出深くて、大好きなジャケットだ。
左上から、
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Dinosaur Jr./Green Mind
写真:Joseph Szabo(ジョセフ・ザボ)
Tom Waits/Rain Dogs
写真:Anders Petersen(アンデルス・ペーターセン)
The Pop Group/For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?
写真:Andre Kertesz(アンドレ・ケルテス)
John Zorn/Naked City
写真:Weegee(ウィージー)
Faith No More/Easy
写真:William Klein(ウイリアム・クライン)
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さて、私が最も気に入っているジャケ写作品は他にある。
2006年にシカゴの Tortoise(トータス) というバンドがリリースした、A Lazarus Taxon (ア・ラザラス・タクソン)という、過去15年間の未発表曲やレア音源を収録した4枚組のボックス・セット。
パッケージは、路上で車がクラッシュした事故現場らしきモノクロ写真5枚で構成されていて、それらが惨状である(かもしれない)ことを忘れてしまうような、深い静けさと美しさを感じさせる一連の写真が印象的だ。
国内版の帯によると、タイトルの『A Lazarus Taxon(ア・ラザラス・タクソン)』とは、「絶滅したはずなのに化石記録で再出現した動物種」を意味する古生物的単語とのこと。※「Lazarus」はイエス・キリストによって、死人から復活したという「ラザロ」が語源
過去の発掘音源を収めた作品集ということで、「蘇生」や「復活」の意味を込めて『A Lazarus Taxon』というタイトルを付けたのだろう。しかし、そのビジュアルに事故写真を組み合わせる、彼らの音楽同様一筋縄ではいかないセンスには恐れ入る。事故写真には「絶望」と「希望」がほとんど同じ意味で記録されているような気がするからだ。
帯の解説から、写真は、Arnold Odermatt(アーノルド・オダーマット) という写真家の作品であることもわかり、さっそくネットで調べてみると、この写真家が第二次大戦後のスイスで警察官を40年も勤め上げた人物であったことに驚く。これらは正真正銘、事故現場の記録写真だったのだ。
私は、パッケージに起用された写真が「Karambolage」という写真集に収められている事を知ると、扱いのある古書店はないか調べ上げ、程なくして神田の古書店で手に入れることが出来た。
その写真集がこちら。
このようにして私は、音楽から、音楽以外の文化的な興奮(芸術、文学、写真、デザイン...。)を受け取って来た。
私にとって音楽パッケージとは、一粒で二度も三度も美味しい飴玉のようなもので、私という人間の80パーセントぐらいは、そんなもので出来上がっているのでは、とさえ思っている。
この写真集は、今でもお気に入りの写真集の1冊として会社の本棚の写真集コーナーに収まっているので、興味にある方は見にいらしてください。
小森
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参考