ボンソワール
写真学校の実習で、カメラ片手に荒川区周辺を撮り歩いていたある日の事。
都電の三ノ輪橋から、5時間ほどかけて9駅先の宮ノ前辺りまで流してみたものの、大した手応えもなく、河岸でも変えてみようかと三ノ輪橋に引き返す車中から、ぼんやりと街並みを眺めていると、不意に目の前の景色と記憶の中の景色がオーバーラップした。
(ん? 絶対見たことがある。)
最寄りの駅で電車を降り、小走りでその場所まで引き返すと、そこには、一度も訪れた事はないけど、確かに記憶にある風景があった。
写真家の鬼海弘雄さんが1987年に撮影した写真だ。
それは「東京迷路」と最近発行された素晴らしい写真集、「TOKYO VIEW」におさめられている1枚に違いなかった。
http://www.kazetabi.jp/
著名な方だから、鬼海さんを好きな方にとってこの場所はよく知られているのかもしれないし、もちろん検索をすれば分かっていた事かも知れないけれど、私にとっては突然の出会い。意図せず重なった足あとが嬉しくて、興奮した。
そして、記憶の中の鬼海さんのフレーミングをトレースするように、少しの気恥ずかしさを飲み込みながら、その場所を写真におさめた。
帰宅後、すぐ写真集のページをめくり、撮ってきた写真と見比べてみると、「ボンソワール」を取り囲む風景がだいぶ変わっているのが面白い。
「ボンソワール」が無くなっていたら、この場所だと気づくことはまず難しいだろう。それにしても、バブルも不況も乗り越え、30年近く存在し続けてる「ボンソワール」は相当なものだ。
どんな店かは分からないけれど、残っているのだからきっと面白い店に違いない。
次にこの街を訪れた時は、ぜひ立ち寄ってみたいと思っている。
もちろん事前に検索などはせずに!
小森